東京高等裁判所 昭和41年(行コ)10号 判決 1967年3月30日
控訴人 水野松郎
被控訴人 特許庁長官
訴訟代理人 上野国夫 外三名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、控訴人が本訴請求の原因として主張するところは、原判決の該当らん一ないし六に記載のとおりであつて、その一ないし三の事実は被控訴人の認めるところである。
二、ところで右請求の原因によれば、控訴人は、「控訴人の有する本件二件の意匠権に関し、特許庁は、右各意匠権はいずれも控訴人の第二年分登録料の不納によりその権利が消滅しているとして、控訴人の第四年分登録料納付書の不受理及び意匠登録抹消の処分をしたので、控訴人は、右第二年分登録料の不納は、特許庁が控訴人に対し、従来行政慣行として行なつて来た意匠権者に対する登録料のいわゆる予納通知をしなかつたのによるとして、被控訴人特許庁長官に対し、行政不服審査法による異議の申立てをし、右の登録料納付書不受理及び登録抹消の各処分の取消しを求めたところ(同庁四〇特総第三、〇四四号、同第三、〇四五号)、被控訴人特許庁長官は昭和四〇年六月一六日右申立てにつき、意匠権者に対する右の予納通知は単に便宜のためのものに過ぎず、法定義務の履行としてなされているものではないから、それがなかつたとしても不当、違法の問題は生ぜず、控訴人の登録料納付義務についてもなんら消長を及ぼすことはないから、控訴人は依然第二年分登録料不納の責を免れ得ないとして、控訴人の異議申立てを棄却する旨決定した。」という経過にあるとし(以上は被控訴人も認めるところである。)、「しかし、すでに意匠法施行規則第一一条第八項によつて意匠権に関し準用される特許法施行規則第六九条の規定の解釈上、特許権者(意匠権者)が特許料(登録料)を納付しないときは、特許庁長官はその旨を特許権者(意匠権者)本人に通知すべき義務を負うものとなすべきのみならず、仮りにそうでないとしても、特許庁長官は、従来永年にわたり特許権者(意匠権者)に対してこの通知を行い来つて、すでに行政慣行となつているのであるから、右の通知義務を負うに至つたものというべきである、」旨主張し、『従つて、控訴人の本件各意匠権の第二年分登録料の不納は、被控訴人特許庁長官の控訴人に対する登録料納付通知義務懈怠に基づくものであるから、控訴人の本件各意匠権第二年分登録料不納を理由に本件各意匠権が消滅したとしてその第四年分登録料納付書不受理及び登録抹消の処分をしたことは法令に違反するものであり、これらの処分を肯定し、控訴人の行政不服審査法による前記異議申立てを棄却した被控訴人の決定は違法であるから、その取消しを求める。』というのが本訴の要旨であるとなすべきである。そして以上によつて明らかなように、登録料納付書不受理及び登録抹消の各処分(原処分)についての異議申立てを棄却した決定の取消しを求める本訴において、控訴人は、要するに、右各処分は、控訴人の第二年分登録料の不納は、被控訴人特許庁長官の通知義務懈怠に基づくもので、控訴人にその不納の責がないのに拘わらず、その不納(の責)があるとなし、よつて本件各意匠権は消滅したとしてなされた違法のものであるとし、「これらの処分を肯定して」右異議申立てを棄却した決定は違法であると主張するものであり、そして右決定の違法についての主張はこれに止まるのであつて、帰するところ、いわゆる原処分の違法を援用、主張するのみで、取消しを求める決定固有の違法についてはなんら主張するところがないのである。しかるところ、本訴に適用のある行政事件訴訟法第一〇条第二項(なお同法第三条第三項参照)の規定によれば、処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求(異議申立て)を棄却した裁決(決定)の取消しの訴えとを提起することができる場合-右と異なる格別の措置が規定されていない本件の場合はこれに当る。-には、裁決(決定)の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができないのであつて、すなわち原処分の違法は、処分の取消しの訴えにおいてのみ主張することが許され、原処分を正当として審査請求(異議申立て)を棄却した裁決(決定)の取消しの訴えにおいては、その主張は許されず原処分の違法以外の裁決(決定)の手続等裁決(決定)固有の違法事由(瑕疵)のみを主張することが許されるのである。
従つて、前記の如くいわゆる原処分の違法事由のみを主張し、本件異議申立て棄却の決定に固有の違法事由についてなんら主張するところなくして、右決定の取消しを求める控訴人の本訴請求は、結局違法事由として主張することを認められている事項につきなんらの主張もないことに帰着し、棄却を免れないものというべく、これと理由を異にするも帰結を一にした原判決は結局相当である。
三、なお附言するに、控訴人において原処分たる登録料納付書不受理及び登録抹消の各処分の違法事由として主張するところは前記のとおりであるが、特許庁長官に控訴人主張のような通知義務があるものと解することができないことは、原判決がその理由二・三において説示しているとおりで、当裁判所もこの見解を正当とするものである(原判決の右判示部分をここに引用する。なお、控訴人は、特許法第一一二条第一項(意匠法第四四条第一項)に、本来の納付期限経過後六月内は追納を許容する旨規定していることをもつて控訴人の見解を正当とすべき一根拠としているようでもあるが、右の規定の存することは、本来の納付義務者たる-従つて不納の事実を知つているべき-特許権者(意匠権者)本人に対し、さらに特許庁長官において不納の通知をなすべき義務を課してまで右本人の保護を図つた趣旨とは到底解し得ないところである)。
そして、本件の二つの意匠権についての第二年分登録料の納付(納付書の提出)が、意匠法第四四条の規定により追納をなし得べき六月の期間を経過するまでになされなかつたことは控訴人の主張自体によつて明らかである以上、その後に提出された納付書について不受理の処分がなされ意匠権設定登録の抹消登録がなされたのはやむを得ないところである。昭和三五年四月一日に施行された現行意匠法は、旧意匠法と異なり第二、第三年分を各前年払いと改めたこと(この点特許法・実用新案法は、旧法どおり三年分前納としている)、従前は特許庁から特許権者・意匠権者等本人に対しても本来の納付期限に登録料の納付がなかつたことの通知が事実上行なわれていたこともあること(このことは被控訴人の認めるところである)、これらのことが本件のような第二年分の登録料納付の懈怠を生じた一因をなしているとしても、前記のような法律の改正があつた以上、権利者側としては、他からの警告の有無に拘らず、みずから納付期限を徒過しないよう十分注意しなければならないことは当然であつて、前記登録料納付書不受理処分等をもつて違法の処分というのは当らないというべきある。
四、よつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 多田貞治 古原勇雄 田倉整)